Going Faraway

渡辺遼遠の雑記帳

読書メモ:イスラーム人生論 『みんなちがって、みんなダメ』(中田考)

北大生シリア渡航未遂事件で一躍有名になった(?)イスラーム法学者、ハサン中田考先生の新刊。 

みんなちがって、みんなダメ

みんなちがって、みんなダメ

イスラームの世界観から言えば、「何をするべきか」、何に価値があり、何が正しく、何が善いことであるかは、すべて神からの預言を通して示されています。イスラームの宣教未到達の地である日本では、いかなる義務も禁止もなく、「価値がある」と信じられているあらゆることが幻想であるのだから、普通の(非ムスリムの)日本人は「できること」を「したい」通りにやって生きていけば良い。

現代の日本で「生きづらさ」を抱くのは、実は、他人や自分が勝手に定めたおかしな基準、「何をするべきか」という幻想に縛られていたり、自分に「何ができるか」、「何がしたいか」をカン違いしているからだ。この本のメッセージを要約すると、こんなふうに言えるのではないかと思います。

(こういう考え方は、たぶん多くの日本人にとっては取っ付きにくいものだと思いますが、少し噛み砕いて言うなら、「善悪や価値にからむ問題は、必ずしも経験的事実を引き合いに出して決着がつくようなものではなく、どこかに「信じるしかない部分」がある」と言えば分かるでしょうか)

そんなイスラーム的な価値観をベースとして、「承認欲求」、「自由と民主主義」、「資本主義」から「領域国民国家」まで日本人的な価値観がバッサバッサと切り捨てられ、身も蓋もない人生論が展開されています。個人的には、私は中田先生とも直接面識があり、これまで出版された一般書をほとんど読んできているため (正直なところ、全てを理解・共感できているわけではないのですが)、本書の議論はほとんど納得のできるものなのですが、これまで中田先生の本を読んだことがなく、一神教的な世界観や価値観に触れたことがない人にとっては、自分がいかに狭い了見に捕われれていたのかに気付き、価値観そのものを揺さぶる本になるのではないかと思います。

合わせて読みたい

イスラーム内部の考え方にもとづく、イスラーム自体の平易な解説としては、『イスラーム 生と死と聖戦』を挙げておきます。池内恵先生が日本的な価値観の内部から、イスラームの「外側」から見た解説を書いてるので、合わせて読むと理解が深まるかと思います。