- 作者: 松本健太郎,池田憲弘
- 出版社/メーカー: シーアンドアール研究所
- 発売日: 2018/04/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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タイトルにこそ「仕事」が入っているものの、仕事、ベーシックインカムから法律や倫理まで広く扱った本。
議論提起型の両論併記な書き方をされていて、安直にAIの期待と恐怖を煽るわけでも一方的に否定するわけでもない、良心的な本だった。
「AIで仕事がなくなる」論のウソ この先15年の現実的な雇用シフト
- 作者: 海老原嗣生
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2018/05/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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こちらは、労働ジャーナリストの著者による「仕事」のみに焦点を当てた本。
直近の未来における労働と雇用のあり方について、実務を知らないAI研究者が想像した話ではなく、各種統計と実務者へのヒアリングから、短中期的なタイムスパンでの現実的なシナリオを検討している。
短期的には、テクノロジーによって雇用は大きな変化を受けつつも、トータルでは「人口減による労働力減少」、「テクノロジーによる雇用代替」と「テクノロジーによる新たな雇用創出」がほぼ釣り合うのではないかと試算されている。それは、以下のような理由があるからだという。
- オートメーション化可能なデータ処理や単純作業は、既に大半が実現されている
- AI化以前でも、単純なIT化による省力化の効果も大きい
- 完全な自動化と雇用代替にはロボティクスの発展が必要
中期的な予想のポイントとしては、AIとロボットによる雇用代替よりも前に、まず「すき間労働」の世界が来るとしている点だろう。もしも機械化が進んでいくならば、機械(資本)の価値は低下する一方で労働の価値は上がるため、人手不足と賃金増が続いていく。(この点は、ノードハウス氏の指摘と似ている) そこで、労働者は、細切れの、習熟やノウハウが不要であるが高賃金の仕事に従事するのだと言う。著者によれば、この「すき間労働」の期間に来たるべき完全なベーシックインカム社会への準備を進めるのだという。
直近15年程度の近未来予測としては比較的説得力があるものの、長期的な予測についてはほとんど根拠も無くシンギュラリティだのマインドアップロードだのと言い出すのは、ご愛嬌と言ったところ。
フレイ&オズボーン論文 (オクスフォード大学の研究) について
どちらの本も、2013年のフレイ・オズボーンによる『雇用の未来』論文の功罪について触れている。
約5年前、「近い将来、47%の職業が失われる」とセンセーショナルな報道が盛り上がったことを記憶している人も多いだろう。きっかけになったのが、しばしば「オクスフォード大学の研究」と呼ばれるこの論文、『The Future of Employment』である。
この論文の手法は、端的に言えば「その職業は自動化が可能かを、研究者が主観的に評価する」というものであり「原理的に自動化できると考えられるのか」を確率的に評価するものである。論文中にも明記されている通り、「いつ、いかなる方法で実際に自動化されるのか」は、この論文のテーマの範囲外になる。
現実に仕事が自動化・機械化されるためには、機械化に対するニーズ・コスト効率や、政治的な原因も絡んでくる。
この論文は、「機械化による雇用の喪失」を定量的に扱ったという点に一定の意義はあると思うし、「AIと雇用」に関する議論に大きく注目を集める効果があったことは否定できない。けれども、予測の手法や議論の前提やスコープが省略され、センセーショナルな結論だけが取り上げられたことにより、AIに対する過剰な期待ないし反発が生まれているように見える。
少し前に英国で「人工知能は将来、人間の47%の仕事を置き換える」というショッキングな研究が出された。これは日本でも話題になったが、欧州でも当然、驚きを持って受け止められた。ところでドイツでは、この問題に関して、追検証のスタディを複数の研究機関に委託した(ドイツは連邦制なので、各地の州政府が独立して動く気風がある)。
その追試研究の結果の数字はまちまちながら、ドイツでは「せいぜい1割程度」という答えとなった。それでも、その報告を重く見て、ドイツは「雇用(Arbeit) 4.0」という次の国家プロジェクトを始動した。同じ時期、日本では、この研究を客観的に再評価する指令を、国や財界が学会に下したという話を聞かない。むしろ47%という数値を、あちこちの人が我田引水や威かしのために、メディアで触れ回った印象しかない。
どちらの著者も、AIに対する過剰な期待や恐怖が反転して、「なんだ、AIなんて大して仕事に影響しなかったじゃないか」と過小評価に継がることを懸念しているのではないかと思った。私自身も新テクノロジーが産業構造に影響を与えることは当然といえば当然だと思っているので、地に足の付いた議論が増えてほしいと思う。