Going Faraway

渡辺遼遠の雑記帳。技術ネタと読んだ本の紹介。

ジャレド・ダイアモンドによる宗教の定義まとめ

上記記事の反応で、宗教の定義が無いというコメントがあったので。

ジャレド・ダイアモンドの「昨日までの世界」の宗教に関する議論の中で、宗教の定義が16件挙げられています。

 

1. 超人的な支配力に対する人間の認識であり、とくに服従の対象となる個人的な崇拝の対象についての認識である(Consice Oxford Dictionary)

2. 信念もしくは崇拝についての特定の体系であり、しばしば倫理規範や一種の哲学を含む(Webster's New World Dictionary)

3. 物体、人物、不可視のもの、あるいは超越的存在、神聖、天与、上智についての思想体系に関連した、信念や考え方とともにする集団を基盤とした社会的一体性を持つ体系。さらに、倫理規範と慣習、価値観、慣例、伝統、および信仰や思想体系に関連した儀礼に関連した信念や考え方をともにする(Wikipedia

4. もし私たちが、宗教生活をできるだけ広い、もっとも一般的な言葉で特徴付けるようにもとめられるならば、宗教生活は、見えない秩序が存在しているという信仰、および、私たちの最高然はこの秩序に私たちが調和し順応することにあるという信仰から成り立つ、と答えることができよう(ウィリアム・ジェイムズ

5. 存在すると認められるべき一つの超自然的行為主体、ないし、いくつかの超自然的行為主体を信じている人々からなる、一つの社会システムである(ダニエル・デネット

6. 自然の運行と人間の生命の動きに命令しそれを支配すると信ぜられる超人間的な象徴の力に対する宥和または慰撫に他ならない(ジェームズ・フレイザー

7. 自分自身の存在の究極の条件と人とを結びつける象徴的な様式もしくは行為(ロバート・ベラー)

8. 社会の「究極の懸案事項」に向けられた信念や慣習の体系(ウィリアム・レッサとイーボン・ボート)

9. 万物の分類を研究する人間を支援あるいは疎外する超人的存在とその力への信念であり、この信念があらゆる宗教の定義で表現されるべき核となる変数であると私は強く主張する。……私は「宗教」を「文化的に前提とされた超人的存在との、文化的にパターン化された相互作用からなる制度」と定義しよう(メルフォード・スパイロ

10. 文化横断的に共通する宗教の要素は、不可視の規則と数々の象徴の組み合わせによって定義される最高の幸福である。この象徴は、不可視の規則と調和して生活するための個人や集団の秩序化を支援するものであり、調和を達成しようとする感情的貢献を支援するものである(ウィリアム・アイアンズ)

11. 宗教とは、神聖すなわち分離され禁止された事物と関連する信念と行事の連帯的な体系、教会と呼ばれる同じ道徳的共同社会に、これに帰依するすべてのものを結合させる信念と行事である(エミール・デュルケーム

12. 大雑把にいって、宗教とは、死や幻想といった人間の存在上の苦悩を超越した、事実や直感に反する超越的存在の力や、超越的存在に対する犠牲が大きく破りにくい約束を共同体がすることである(スコット・アトラン)

13. 宗教とは、一般的な存在の秩序の概念を形成し、また、これらのの概念を事実性の層をもっておおうことによって、人間の中に強力な、浸透的な、永続的な情調と動機づけを打ち立たせ、情調と動機づけが、独特、現実性をもつようにみえるように働く、象徴の体系である(クリフォード・ギアツ

14. 宗教とは、神話を創造して普及させるため、さらに利他の精神を相互に発揮させるため、そして共同体の成員間でそれぞれの利他と協力の精神の度合いを知らしめるために、人間文化の不可欠な機序として進化した社会的慣習である(マイケル・シャーマー

15. 宗教とは、信仰と習慣と制度が一組になったものであり、人間がさまざまな社会で進化させてきたものである、と定義する。(タルコット・パーソンズ

16. 宗教は追いつめられた生き物のため息であり、非常な世界の情であるとともに、霊なき状態の霊でもある。それは人民の阿片である(カール・マルクス

ダイアモンドは、以上16件の定義を踏まえた上で、宗教の特徴を以下5つにまとめています。

1. 超越的存在についての信念の存在
2. 信者が形成する社会的集団の存在
3. 信仰にもとづく活動の証の存在
4. 個人の行動の規範となる実践的な教義の存在
5. 超越的存在の力が働き、世俗生活に影響をおよぼしうるという信念の存在

なお、「一つ二つの要素が欠落するからといって、その事象を非宗教的と決めつけることも意味をなさない」と注意を述べています。 

この手の定義を見て少し不思議だなぁと思うのは、死後の来世のあり方、あるいは現世における永遠の生命について直接的に述べる人が少ないことです。(おそらく 1. の「超越的存在」に含まれるのでしょうけど) 

私自身は「世俗と宗教」を分けることにそんなに意味はないと思っているのですが、宗教の特徴を整理してみると、以下の5つになると思います。

  1.  超越的存在への信念
    ここで言う「超越的な存在」は、神や霊かもしれませんし、仏教の「輪廻転生とカルマの法則」、「収穫加速の法則」のような抽象的法則の類いかもしれません。また、 ここで言う超越的存在には、自分自身や近親者の死後のあり方、来世や永遠の生命についての語りを含む場合が多いです。
  2. コミュニティ
    人間は放っておくと (世俗的なものも含む) 集団を作るので、それほど重要な要素でもないかも… と思います。
  3. 儀式、儀礼
    ここで言う「儀式や儀礼」は、「実際的・実利的な意味から切り離された活動」を意味します。「感染症を防ぐため衛生的に死体を処理する」のではなく「遺体に何らかの言葉を唱えた上で墓地に埋葬する」、「特に読んでない科学記事をリツイートする」という感じです。
  4. 道徳的な掟や価値判断の基準
    義務や禁止事項、善悪の基準など。
  5. 超越的存在の力が及ぼす世俗世界への影響の信念
    「先祖の霊が祟る」、「科学技術の進歩は自然法則」といった信念があります。

この観点から言えば、クライオニクス、マインドアップローディングや劇的な寿命延長などのフリンジサイエンス的信念・実践による永遠の生命への希望を含めた、広い意味でのシンギュラリタリアニズム/トランスヒューマニズムは、やはり宗教であると思います。