Going Faraway

渡辺遼遠の雑記帳

翻訳:ケク戦争Part3 カエル神の凱旋 (ジョン・マイケル・グリア)

以下は、ジョン・マイケル・グリアによる"The Kek Wars, Part Three: Triumph of the Frog God" の翻訳です。


The Kek Wars, Part Three: Triumph of the Frog God

前回のケク戦争についてのスリリングなエピソードでは、何千人もの不満を持つ若者たち、我々の社会の特権サークルから締め出され独立した大人への通常ルートを否定された人々が、どのようにして魔術へ向かっていくのかを確認した。この連載記事の最初で議論した通り、魔術は排除された者にとっての政治である; 意思に従って意識に変化をもたらす技芸と理論 --ダイアン・フォーチュンによる魔術の古典的な定義-- は、自身の要求と要望を気付かせたり、不満の救済を求める方法をすべて否定された者にとっての論理的なリソースとなる; また、特定の、明確なポストモダン版の魔法、ケイオス・マジックは、容易にアクセス可能であり、目前の作業に対して適していた。

次に何が起こったか理解するためには、おそらく、読者の大部分が現実に遭遇したことがないであろうインターネットの一角に飛び込む必要がある; 集合的に「ちゃんねる [the chans]」として知られるオンラインフォーラムである。それらの始まりは、日本語のアニメファンのための電子掲示板、ふたばちゃんねるなど無害なものであり、後にネット上のスラングで「2ちゃん」と呼ばれるようになった。2003年には、アメーバが増殖するようにアニメファンの集団は新たなサイト、4chanへと分離した。そこでは英語で同じことが行なわれていたのである。

やがて、同様にして8chanといった他のサイトも4chanから派生していった。4chanその他の子孫は、匿名の管理されない会話の場所であり、どんな話題でも許容される場所である -- 一般常識に対して攻撃であるほど、より望ましいとされる。トランプが立候補を宣言するよりずっと前から、ちゃんねらーはインターネット文化に多大な影響を与えていた。ほとんどの読者は、たとえば、lolcat*1が何であるか知っているだろう。4chanがlolcatsを発明したのだ。4chanと他の分派の掲示板に存在する下位グループとして、/pol/, 「政治的に不適切 [pollitically incorrect]」という板 *2 があり、若く不機嫌な人々が集まって今日の職場や大学では話すことを許されない話題について会話しているのである。

この現象は少しばかり掘り下げておく価値があるだろう。道徳史の教訓として、何かを強烈に抑圧すればするほど、人々はますます必死にそれを求めるようになる。ビクトリア朝イングランドで、礼儀正しい社会ではまったくセックスについて言及されなかった時には、ロンドンの道には売春婦が溢れ、娼館は繁盛し、大っぴらには話せない夢を私的に満たすことができたのである。同様に、近年のアメリカにおける薬物乱用の蔓延も、過剰宣伝された「薬物戦争」の産物であることはほどんど疑いがない。-- 薬物依存を通常の医療問題として扱い、道徳的な見世物の対象としない国では、薬物乱用率ははるかに低いのである。

近年の「ヘイトスピーチ」に対する抑圧も、今日のアメリカにまったく同様の効果をもたらした。大学の講義に出席したことのある人、あるいはホワイトカラーの仕事に就いている人であれば、嫉妬深いライバルによってあらゆる言葉が検査され、性差別、人種差別その他への告発が、地位を求める競争で武器として利用されると知っているだろう。ほとんどの人は、そんな息苦しい環境に押し込められたとしたら、深呼吸ができ、どれほど攻撃的であれ言いたいことを何でも言える場所を必死で追い求めるだろう。ちゃんねるは、そのような自由を提供するインターネット上のサイトである。ちゃんねるの投稿は匿名であるため報復を受ける心配はなく、また、ちゃんねるの文化では (特に /pol/ は) 過激な言説ほど賞賛される傾向があるため、先週の記事で議論したような負け組の人々を吸い寄せる磁石となった。何らかの理由により、確立された社会秩序の使用人となる戦いに敗北し、急落する賃金と上昇する家賃によって独立した大人への通常の道のりから締め出された人たち。そして、あらゆる答えを保持しているという優越感に自惚れたシステムにより、その数を増やされた人たち。

ちゃんねらーを人種差別主義者、性差別主義者あるいは反ユダヤ主義者として非難することは、儀礼上必要不可欠となった。/pol/ やその他の同等の場所に人種差別、性差別、または反ユダヤ主義は存在するのだろうか? もちろん存在する。しかし、それがすべてではない。匿名での発言を許容する場は、激しく禁じられている言説なら何であろうと取り扱える。ちゃんねるで繰り広げられていることは、それらのカテゴリが指し示すものよりもかなり広い: 文化的な主流派のあらゆる価値観、あらゆる偏見、あらゆる前提が、最大限の歓喜をもって弾劾されている。それはアウトサイダー文化で普通に見られるものである。

また、奇妙なマスコットが、内輪向けスラングが含まれたジョークを言っているのも眼にしたことがあるだろう。ここでカエルのペペが登場する。カエルのペペは、マット・フューリーの漫画、『ボーイズクラブ』のキャラクターとして2005年に登場した。典型的な怠け者であり、いかなることも気にかけないキャラクターである。よくある通り、彼はインターネットを横断して最終的に /pol/ のマスコットとして受け入れられた。そして、「ケク」という言葉があった。オンラインゲーム『ワールド・オブ・ウォークラフト』のゲーム内で、他のグループにLOLというメッセージを送信しようとすると、ソフトウェアの奇妙なバグによりそう表示されてしまうのだ。ちゃんねらーの間では、「ケク」は笑い声を意味するようになった -- 奇妙なことに、それは韓国語で笑いを意味するのだ。

もう一つ、何が起こったかを知るために、説明しておくべきちゃんねらー文化がある。ちゃんねるのそれぞれの投稿には、掲示板ソフトウェアにより8桁の番号が割り当てられる。投稿者は、投稿を終えるまで番号が何であるかを知る方法はなく、最初はジョークとして、次第にちょっとした強迫観念的に、連続した数値が探されるようになった。 - たとえば、14186333の333のように。二重の数字は「ダブ」で、三重の数字は「トリップ」であり、以下同じように続く。繰り返された数字が何であれ「キリ番 [get]」である。*3

ドナルド・トランプが大統領選挙への立候補を宣言した瞬間、相当数の /pol/ 参加者が彼の大義の元へと集った。それはマッチしていたのだ -- まぁ、おそらく完璧ではないだろうが、しかしポイントは理解できるだろう。トランプのデカい態度と、リアリティTVのスターが大統領選挙に出馬するという強烈なパロディ的ポテンシャルによって、またアメリカ政治の一般通念に対する大声の拒否によって、彼はすぐに /pol/ 住人たちのお気に入りとなった。トランプが提供するまで代替策はなく、連邦規制の大規模な削減、自由貿易イデオロギーへの拒否、違法移民の暗黙的な推奨の終了を要求する者は存在しなかった: つまり、アメリカ人労働者階級を粉砕した政策の3つの中核的要素を排除することである。明白な理由により、我々が議論している場では、これらすべてが極めて強く肯定された。

そして、 /pol/ の住人たちが気付いたところによると、トランプに言及する投稿は、普通でないほど多くの「キリ番」を得られたのだ。

その時までに、/pol/ 上のトランプの支持者たちの中にはケイオス・マジックを学んでおり、彼らの候補者を代表して魔術を使い始めていた。トランプの髪をカエルのペペにかぶせるミーム、トランプの隣にペペを副大統領候補として並べたり、あるいは、それ以外の方法でペペをトランプの選挙運動に関与させるなどのミームがちゃんねる上全体で活発に投稿され、インターネットへも広がっていった。トランプを支持する投稿が大量の「キリ番」を生み出すにつれて、大声のケッキング [kekking] も上がっていった。-- そして、2016年6月19日が来て、匿名のユーザが関連のない投稿の連続に対する返信として「トランプは勝つ」とタイプし、エンターボタンを押した。

その投稿の番号は、「77777777」であった。

それと同じころ、ちゃんねる上の誰かが「ケク」は単にLOLを面白く言うだけの言葉ではないと気付いたのである。それは、古代エジプトの神の名でもあり、光を生み出した原始の闇の神であり、ヘルモポリスの都市で崇拝されていた -- そして、しばしば擬人化されたカエルとして描かれていた。この手がかりに続いて、別の匿名ユーザがインターネット上で古代エジプトのカエルの銅像の写真を発見し、これをケクの像であると見なしたのである。実際には、それはカエルの女神ヘケットの像であったのだが、当初それに気付いた者はいなかった -- また、ヘケットの名前のヒエログラフ文字は、不気味なほどにコンピュータのスクリーンの前に座る人に似ており、スクリーンの逆側に描かれた渦巻き形は、まるで魔術的なエネルギーを発しているようにも見える。

これがちゃんねる全体に広まった後では、ドナルド・トランプはケク神によって選ばれた候補であると、昼の光をもたらし、カエルのペペとして顕現し、「キリ番」により承認を世に伝えたのだときわめて多くの人が確信したのである。あるいは皮肉な言い方をすれば、彼らは確信しているかのように装い、また、すべての出来事は彼らが確信したかのように進んでいったのだ。それに反応して、/pol/ のケイオス・マジシャンたちは即座に行動を起こした。2016年の大統領選挙を追いかけていた読者たちは、当時、民主党候補のヒラリー・クリントンに関するある噂が渦巻いていたことを覚えているだろう。彼女の健康状態は衰弱しており、それをメディアと有権者に隠していると主張するものだ。/pol/ のオペレイティブ・メイジたちは、彼らの努力を一つの目標に集中させた: ヒラリー・クリントを公衆の面前で倒れさせることだ。

2016年の9月11日がやってきて、その日3つのことが起こった。1つ目に、クリントンがカエルのペペを右翼のヘイトのシンボルとして非難したのである。ちゃんねらーたちは大喜びした -- すべては彼らのマスコットに対する無料の宣伝だった! そして、クリントン世界貿易センターテロ攻撃の追悼式典から立ち去る時、カメラに撮影されている前で、彼女はよろめき、倒れそうになり、まるでじゃがいも袋のように待機していたSUVに引きずられていったのだ! 共和党の間で激しく噂が起こり、/pol/ のケイオス・マジシャンの間でもデジタル的に等価な現象が起こり、皆がショックを受けているように見えた。オカルト界隈には、TSWという便利な略語がある。 -- その意味を丁寧に言うならば、「this stuff works [このものは機能する]」である -- 初心者に魔術を教えた人は皆、不可避のTSWパニックに慣れている。魔術を学ぶ者が、魔術には思い込み以上の何かがあると最終的に確信する不安定な瞬間である。通常の場合、ヒステリーに近い状態から会話によってなだめる必要がある。その日、ちゃんねらは彼ら自身のTSWの瞬間を経験したのだ。

そして、同じ日に3番目のイベントがあった。また別の匿名投稿者が、1980年代のポップミュージックの一片を偶然に発見したのである。忘れられていたかもしれないその曲のタイトルは「シャディレイ [Shadilay]」であった。レコードのラベルにはマンガのカエルが描かれており、魔法の杖を持っている。おぉ、そのバンドの名前は? P.E.P.E だ。ヒラリー・クリントンがカエルのペペを非難し、倒れたちょうどその日にこれがちゃんねらーたちを襲ったのである。多くのちゃんねらー達は決断した。あるいは、皮肉な言い方をすれば、決断したかのように装ったのである。そして、すべての出来事は彼らが決断した通りに進んでいったのだ。すなわち、カエルの神ケクからの大いなる信任を得たのであると。

「シャディレイ」の曲は、正式に /pol/ の国歌となり、「シャディレイ!」という言葉自体も、ケク神への信仰へを示すものとして、敬虔なムスリムにとっての「 アッラーは偉大なり アッラーフアクバル」と同様のステータスを持つ言葉となった。その後、もしもドナルド・トランプがちゃんねる上の支持者に対して海へと歩いていくように呼び掛けたならば、彼らがそのような行動を取った可能性は十分にある。- そして、/pol/ その他に集ったケイオス・マジシャンたちは、選挙キャンペーンが最も重要な局面に差し掛かる数週間に、カエルの神の旗印のもとに狂気じみた熱意を持って集い、その熱意は投票日までずっと続いたのである。

これが、2016年の大統領選挙を形作った魔術の衝突の一つの側面である。では、別の面とは? 話が本当に面白くなってくるのはここからだ。

ケク戦争の最初のエピソードでは、我々は、どのようにして社会の排除された者と排除する者との間で亀裂が生じるかを語った。そして、これらの分離した非対等な半分の各々が魔術へ向かう理由についても語った。排除された者は変化を求めて、排除する者は変化の必要がないと自分を確信させるために。ほとんどの状況においては、これらの2つの魔術的な意図は、比較的安定したバランスを見つける。貴族は、自分たちの側に真実と礼儀が存在し、世界はすべて正しいと確信して自己参照バブルの中で愉快に踊る。一方で、バブルの外にいる人たち、自身の要求と要望の追求と不満の救済を阻止された人々は、彼ら自身の生活を改善するためにケースバイケースで魔術を適用する。

これは、特権を持つ階級が、あらゆる人々の犠牲のもとに自分自身に利益をもたらす政策以外に代替策はないと思い込んだ場合の平常運転 [business as usual] である。前回のエピソードで言及した誤りが犯されると、これは異常運転 [business as unusual] へと変わる。 すなわち、雇用できる以上の人間を管理業務のために教育するという慣習により、豊富なスキルを携え将来の見込みのない十分に巨大な知的アンダークラスの若者が作られ、システムの転覆を目指して利用可能な戦略に眼を向けるようになった時である。

この時点において、排除する者の魔術が破滅的な責任を負うようになる。特権階級によるファッショナブルなスピリチュアリティの利用により、まさに眼と鼻の先で起きていることが完全に見えなくなってしまうのだ。最初のエピソードで言及した通り、発生した事象を無視するリスクがより深刻になるにつれて、リスクを無視することは何よりも魅力的になる。

実例? イングランドのチャールズ1世は、後期ルネッサンスのヘルメス主義を用い、エスタブリッシュメントキリスト教スピリチュアリティを堅実に実践したことにより道を見失い、彼の政策は国家を内戦へと一直線に導き、戦争に敗北し処刑された*4。ニコラス2世、全ロシアのツァーリは、ロシア正教会スピリチュアリティ神秘主義を用い、同様の窮地へ追いやられまったく同様の血なまぐさい結末を迎えた*5アドルフ・ヒトラーは、ウィーン時代に学んだポップなオカルティズムを用い、自身と彼のインナーサークルに対して敗北の可能性はないと確信させ、結果として更に破滅的な敗北を迎えた。

そして、ヒラリー・クリントン。確かに、トランプは選挙の勝利を目指して熱心に運動し、集会から別の集会へと地方を巡業し、主流派メディアを迂回して自身のメッセージを有権者へと直接伝える努力で大きな成功を収めていた。それでも、クリントンの驚くべきほど不活発なキャンペーンによって、トランプはホワイトハウスへと進む道のりを助けられたと言うのは公平だろう。

いくつかの失敗は、クリントン自身の行いにあることはかなり明白だ。たとえば、彼女の2016年のキャンペーンは、2008年の民主党指名選挙で敗北した際の運動とまったく同一であったということは示唆的である。選挙運動の初期において、かつてバラク・オバマが演じた役割をバーニー・サンダースが再演したのである。それにもかかわらず、過去と同様に予備選で敗北しなかった唯一の理由は、クリントン民主党の幹部を味方に付けていたために、党幹部はクリントンが指名されるように規則を曲げ、破り、無視したからである。もちろんその行いの対価は、一般投票においてクリントン自身に大きく降りかかった。何百万人という民主党有権者は、指名獲得において不正を働いたと見なす候補に投票するよりは、選挙を放棄して家に留まることを選んだからである。それでも、このようなオウンゴールは、彼女の選挙キャンペーンではごくありふれたものである。

それでも、私はそれ以上の何かがあると思う。クリントンの選挙キャンペーンの運命を定めたのは、他の何よりもまして、候補者自身と彼女のインナーサークルのアドバイザーとマネージャーが、何か悪いことが発生していると気付けなかったことにある。世論調査の度に、大きな割合のアメリ有権者たちが候補者を嫌い、信用していないということが示されたが、クリントンのアドバイザーたちは単に虚空を見つめ、有権者に対してもう一度彼女を紹介するよう定めたのである。それがうまく行かないと --またそれは決してうまく行くことは無かったのだが-- 彼らは虚空を見つめ、同じことを繰り返したのだ。私の視点からは、そして私だけではないと思うのだが、彼らは本当に呪文にかけられているかのように見えた。

選挙運動が進んでいくと、クリントンの組織が現実から奇妙に遊離しているという事実はいっそう顕著になった。民主党の選挙運動の地方組織に携わっていた人たちは、中央本部へ警告を伝えようとする必死の努力について書いている。シカゴのような、仮に民主党がジッピー・ザ・ピンヘッド*6を候補者に指名したとして容易に勝利できるような地域に何百万ドルも費やされている一方で、トランプは重要なスウィングステートで支持を得つつあり、もはや無視することは非合理である、と。トランプが死活的に重要な上中西部で何度も集会を開催し、毎回の世論調査で数字がトランプの方へ傾いていった時、クリントンのキャンペーンはそれらの戦場州を無視し、まるで勝利の運命が宇宙によって定められているかのように、うやうやしく前へと進んでいたのである。

私が知りたいと思うのは、もしも誰かがそんな統計を取っていればだが、クリントンの選挙スタッフのうちの何人が、最近の特権階級の間で広く広がっているスピリチュアリティ、たとえば希釈されたバージョンのマインドフルネス瞑想、ヨガ、その他類似のスピリチュアリティを実践していたかである。それらのスピリチュアリティの実践は、もともとのコンテキストから切り離され、包含していたスピリチュアルなリアリティとの繋がりを失なうと、あまりに効率的に「すべては素晴しい」との確信を抱かせてしまう手法へと成り下がる。たとえ、「すべては素晴しくない」と認識し、破局を避けるためには抜本的対策が必要となる状況にあってさえである。私が耳にしたそのような逸話的な証拠は、スピリチュアルな実践が、少なくともクリントンの選挙スタッフの間で蔓延していたと示している。今日の裕福なリベラル派のサークルで一般的であるように。

言い換えれば、スピリチュアリティクリントンの敗北において重大な役割を果たしたのだろう。同様に、このような主張が今日の工業文明の大部分では受け入れられないと知っているけれども、/pol/ のケイオス・マジシャンのオカルト的な働きも、選挙の結果に何らかの関連を持っているのだろう。オカルティストがよく言うように、TSW [This Stuff Works; このものは機能する] のだ。今日の世界で一般的な通念が、魔術の有効性を説明する理論を提供しているか否かにかかわらず、事実としてこの惑星上のあらゆる人間社会が、あらゆる時代を通して魔術を実践してきた。そのリアリティを最も簡潔に説明するならば、意思に沿って意識に変革を起こす技芸と理論は、本当に、意思に沿って意識に変革を起こすのである。

それでも、ここでは他の力も働いている。その後の影響を見れば明白である。

ドナルド・トランプの勝利による衝撃と喜びからちゃんねらーたちが立ち直った後、同じケイオス・マジシャンたちの多数は、同じテクニックを更に別の類似プロジェクトに用いると決めたのである。カエルのペペとして顕れたケク神に、より多くの魔術を求め、次なるプロジェクトを立ち上げたのだ; フランスの次期大統領選挙で、国民戦線の極右候補マリーヌ・ルペンを当選させることである。彼女は敗北した。何件かの類似プロジェクトが立ち上げられ、/pol/ のケイオス・マジシャンによって強烈に支持されたが、それらも同様に手酷く失敗した。私が知る限りにおいて、これらの他のプロジェクトのうちで、「キリ番」の連続と意味のある偶然の連鎖による答えを得られたものは無かったようである。

一方で、クリントンの選挙キャンペーンを捉えた奇妙な麻痺は、彼女の支持者たちの間で、また更に一般的には、アメリカその他のトランプへの反対者たちの間で凍結されたかのように留まり続けている。毎日毎日、「レジスタンス」を自称する者達が、最近トランプが何かを言ったり行なったりするたびにメルトダウンしている。まるで、激怒の叫び声が効果的な政治行動であるとでも考えているかのように。この時点において、トランプはその効果を自身の目的のために活用しているということはかなり明白である --意図的に、抗議者を狂乱させるような発言をする。すると、彼らは政権が別のところで別の課題に取り組んでいることに気付けないのだ。その課題とは、もしもトランプの抗議者たちが叫び声を上げることに忙しくなければ認識できて抗議をするような課題である。

更には、民主党の側では、次の中間選挙民主党が勝利しうる2つの行動 -- 最初に、2016年の選挙の敗因を見極め、そしてその言動を止めること; 次に、あまりに長い間民主党から無視され、2016年の選挙で家に居たかトランプに投票した民主党の普通の労働者階級の有権者たちの忠誠心を取り戻せる方法を発見すること-- この2つを提案した者は誰であれ、強烈な非難を叫ばれている。その代わりに、トランプの敵対者たちは横断幕を持って行進を続けている。これは、選挙の日以来彼らが取ってきた方法と正確に同一であり、過去の抗議運動と同じく薄い効果しか挙げられないだろう。

私が知る限りにおいて、これらすべてのことが起こるように魔術を使用したちゃんねらーは存在しない。しかし、それは起こっている。次の記事、ケク戦争の最後のエピソードでは、アメリカ政治の表層の下の暗がりで、何がうごめいているのかを説明しよう。

*1:訳注:Lolcat - Wikipedia

*2:訳注: 政治隔離板の類い

*3:訳注:4chan類似の掲示板では、投稿のIDとして、掲示板全体で一意の通し番号が使われる。(スレッドや板単位の番号ではない)

*4:訳注:清教徒革命

*5:訳注:ロシア革命

*6:訳注: 漫画のキャラクター