Going Faraway

渡辺遼遠の雑記帳

翻訳:ドナルド・トランプと憤怒の政治 (ジョン・マイケル・グリア)

この記事は2016年1月20日に書かれた。本記事の2週間前の記事で、ジョン・マイケル・グリアは2016年の予測としてドナルド・トランプが大統領に当選すると述べた。本記事は、その予測記事に対する反響への補足である。

DONALD TRUMP AND THE POLITICS OF RESENTMENT

2週間前、私が新年に立てた予測のうちで一番大きな困惑と冷笑を引き起こしたのは、来年の1月に聖書に手を置いて立ち、次期合衆国大統領としての宣誓をする可能性が最も高い人物が、ドナルド・トランプであるという提案であったようだ。その予測は、人々をイラ立たせるつもりで、あるいは楽しませるつもりで立てたものではない; あるいは、それは世論調査でのトランプ支持率上昇に対する単純なリアクションでもなければ、共和党のどうでもいいライバルたちのトランプを減速させる試みが、散々に失敗したことに対するリアクションでもない。

ドナルド・トランプの台頭は、むしろ、私がこれらのエッセイで既に何度も議論してきたターニングポイントの到来を示すものである。未来の舞台におけるその差し迫った姿をここで説明してきた他のターニングポイントと同じく、それは世界の終わりではない; そのため、もしトランプが当選したらアメリカを去るという民主党員の主張を聞くと、もしオバマが再選されたらアメリカを去ると主張していながら今でもアメリカに居る共和党員たちを思い出し、私は愉快な気分を覚える。それでも、この二者の間にはいくらかの重要性の差異が存在する。なぜならば、アメリカ合衆国の歴史的な軌道という観点からは、トランプはバラク・オバマよりもはるかに意義深い人物であるからだ。

2008年の選挙キャンペーンを取り巻いていたホープとチェンジという空疎なレトリックにもかかわらず、結局のところ、オバマは前任者ジョージ・W・ブッシュの政策を容赦なく継続したため、それらの政策 -21世紀初頭のアメリカ政治の一般常識 [conventional wisdom] あるいは、一般非常識 [conventional folly]- は、ダビーオバマ・コンセンサスとでも呼びうるだろう。トランプの立候補は、そしてある程度は民主党のトランプのライバル、バーニー・サンダースも同様であるが、それら政策への反発が巨大な政治的現実と化したことを示している。この反発が、多くの左派の人々が望んだ形を取らなかったのは、まったく驚きではない; そんなことは決して起こらなかっただろう。なぜならば、このような反発を不可避のものにしたダビーオバマ・コンセンサスへの反対は、左派の目標ではないからだ。

その後何が続いたかを理解するために、読者諸君にお願いする必要がある -特に、自分をリベラル派だと考えている人たち、あるいは、今日の複雑なアメリカ政治シーンのなかで、自分は中心よりも左側のどこかに位置していると考えている人たちに。しかしそれに限らないのだが- 2つの一般的なクセを一度棚上げしてほしい。最初は、今日のアメリカで有意義な政治的思考の欠如を埋め合わせるためにしばしば使われる、あざけりの言葉の反射的な利用である-もう一度言っておくと、左派に顕著であるが、しかしそれだけではない。ドナルド・トランプの選挙キャンペーンに対して繰り返し投げつけられる殺伐とした侮辱は、この好例である: 「腐ったチートウ[スナック菓子]」、「トマト頭の愚か者」、「妄想チーズ生物」などなど。

これらほとんどの侮辱の目標は、トランプの身体的外見を狙った単なるひねくれた男子生徒めいた悪口でないのならば、彼が愚かであると主張するものである。これはまったく驚きではない。アメリカ文化の左側に位置する多数の人々は、自分に賛同しない人々に愚かさを割り当てるために、このような無意味な言葉を使うことを好むからだ。ゆえに、たぶんここで指摘しておく必要があるだろうが、トランプはまったく愚かではない。彼はとんでもなく賢く、その賢明さを示す指標の1つとしては、たくさんの敵対者を引きつけて、自身の選挙キャンペーンにとって最も重要である有権者へのアピールを強めるような行動を取らせていることである。自分が後者のカテゴリに属しているのかどうか分からない場合、読者諸君、もしもあなたがトランプの髪型をチーズウィズと比較するツイートの投稿を好むのであれば、ノー、あなたはトランプがアピールしたい有権者ではない。

だから、これがトランプ現象を理解するために止めなければならないことの1つ目である。2つ目は、私の読者の多数にとってさらに困難だろう; アメリカ社会で問題となる分断は、何らかの生物学的な基礎を持つものだけであるという考え方である。肌の色、性別、民族性、性的指向、障害など。-これらは、アメリカ人が好んで語る社会の分断線であり、それは分断線のどちらか一方に属する人々に対する態度がどうであれ変わらない。(ところで、上記の4個の単語、「何らかの生物学的な基礎 [some basis in biology]」には注意してほしい。私は、これらが本質的に純粋な生物学的カテゴリであると主張しているわけではない; これらすべては実際のところ膨大な文化的構築物と偏見により定義されるものであり、生物学へのリンクは、定義というよりはむしろ直示的カテゴリに対するマーカーである。私がこの注釈を挟んだのは、あまりに多くの人がここで私が説明しようとしているポイントを誤解していることに気付いたからだ。)

ここで名前を挙げた分断線は重要であるのだろうか? もちろんその通り。今日のアメリカの生活では、これらの要素に基づいた差別的扱いが広く蔓延している。それでも、アメリカ社会には生物学的なアンカーを欠いた異なる分断線も存在するという事実、そしてその中には少なくとも上記の分断線と同じくらい蔓延しているものも存在するという事実は残っている-また、その中で最も重要なものはタブーの話題であり、今日アメリカのほとんどの人々が語りたがらないテーマである。

これが関連のある事例である。今日のアメリカ人の経済的・社会的な将来の見通しの大部分は、非常に簡単な質問をするだけで判断できる: 収入の大部分をどうやって得ているのですか? 広く言えば、 -すぐ後で説明する通り例外があるものの- 収入源は、4つのうちのいずれか1つである: 投資の利得、月ごとの給与[salary]、時間ごとの賃金[wage]、または政府の福祉支給である。これら4つのうちの1つから大部分の収入を得ている人々は、共通の大きな利害を持っている。そこで、アメリカ人を投資階級、給与階級、賃金階級、福祉階級に区分して話すことには意味がある。

ここで明確に指摘しておかなければならないだろうが、これら4つの階級はアメリカ人が好んで語る分断と一致するものではないということだ。つまり、福祉階級には薄い色の肌の人が多数存在し、賃金階級にも濃い肌の人が多数存在する。2つの富裕階級では白人が増える傾向にあるものの、それでも有色人種の人々も存在している。同様に、女性、同性愛者、障害者なども4つの階級すべてに発見でき、その人たちがどう扱われるかは、これら階級のどこに属しているかに大きく依存する。たとえば、もしも読者が障害者であるならば、障害に対処する有意義な支援を受けられる可能性は、時給労働をしている場合よりも、給与を受け取っている場合のほうが、概してかなり大きくなる。

上記の通り、これらの階級に分類されない人々も存在する。私がそうだ; 作家として、私は収入の大部分を書籍の売り上げに対するロイヤリティから得ている。つまり、あらゆる販売チャンネルで流通する私の書籍が売れるたびに約1ドルが得られ、それは年に2度私に送付される。ただし、Amazonで売れた場合にはそれよりもかなり少ない-Amazonの大きな値引きは、あなたのお気に入りの作家のポケットから直接的に奪われたものなのだ。このようにして生計を立てている人はとても少ないので、ロイヤリティ小階級はアメリカ社会で重要な要素ではない。今日アメリカで生計を立てる他の方法についても、それは同様に当てはまる。かつて大きな利益を上げていた階級、自分自身が所有するビジネスの利益から収入を得る人々[自営業者]も、今日ではあまりに縮小してしまったため、集合的な存在感を欠いている。

これらの4つの主要階級について議論できることは莫大な量になるだろう。しかし、私は政治的な側面に注目したい。なぜならば、現在進行中の2016年大統領選挙キャンペーンで、圧倒的なまでの関連性を持っているからだ。4つの階級を極めて単純な質問で特定できるのと同じく、先に言及した反発をドライブする政治的爆弾は、また別の単純な質問によって確認できる。過去半世紀程度の間、4つの階級の暮らし向きはどう変化したのか?

答えは、もちろん、4つのうちの3つはほぼ同じ場所に留まってきたということだ。投資階級にとっては、実際には少しだけ厳しい時代だった。かつて安定した収入をもたらしてきた投資手段-預金証書、政府債券など-の利益率が落ち込んでいるからだ。それでも、代替の投資手段と政府による株式市場価格への狂った介入により、ほとんどの投資階級の人々は慣れ親しんだライフスタイルを維持できた。

給与階級は、同様に、半世紀間蓄積された変化を通して親しんだ特権と能力を維持し続けた。現在投機バブルに捉えられている少数の沿岸都市エリアの外では、月給から収入の大部分を得る人々は、概して家を所有し、数年毎に車を買い替え、毎年の休暇には旅行をするなどの余裕がある。スペクトラムの逆の末端、福祉階級は、ほとんど以前と同じような窮地が続いている。変わりばえのしない過酷な貧困という厳しい現実への対処、非効率的な政府官僚機構、国家生活への完全な参画を妨げる膨大な直接的・間接的障壁。ちょうど、1966年における同等の人々の状況と同じである。

それでは、賃金階級は? 過去半世紀以上、賃金階級は破壊されてきた。

1966年、時給制でフルタイムの労働をする1人の働き手が居るアメリカ人家族は、家、車、1日3回の食事、その他の普通の生活必需品を所有でき、その余りを時々の贅沢品に使用できた。2016年、時給制でフルタイムの労働をする1人の働き手がいるアメリカ人家族は、路上生活を余儀なくされている可能性が高い。そして、現在の条件以下でも喜んでフルタイムで働くであろう多数の人々が、まったく職を見つけられないか、あるいはパートタイムや一時雇用しか得られていない。アメリカ賃金階級の貧困化と悲惨化は、我らの時代の最も巨大な政治的現実である-またそれは、最も言及されることのないものでもある。それについて話そうとする人、あるいはそれが発生していることさえ認める人はごく少ない。

賃金階級の破壊は、大部分がアメリカ経済生活の2つの大きな転換によって達成された。最初は、アメリカの工業経済の融解と第三世界搾取工場 スウェットショップ によるその代替である; 2番目は、第三世界諸国からの大量の移民である。これら2つのどちらとも、賃金を低下させるための手法であった-注意してほしい。給与、投資利得や福祉支給ではない-賃金が支払われる仕事の数を経らすこと、その一方で、それらの仕事へ競争する人の数を増加させることである。両方とも、逆に、政府の政策によって強く推奨されたのだ。また、議会のどちらか片方からの大量の空疎なレトリックにもかかわらず、[共和党民主党の]双方は、実際的な目標のために手を取り合い、政治的エスタブリッシュメントから超党派の支持を受けたのである。

最後のポイントについては少しだけ話しておく必要があるかもしれない。両党は、アメリカ人労働者とその家族に対してときどきワニの涙[ウソ泣き]を流して見せるけれども、徹底的に雇用のオフショアリングを支持した。移民は、これよりも少しだけ複雑な問題だ; 民主党は移民を支持し、共和党はいつも反対しているものの、実際上それが意味することは、合法的な移民を困難にして違法移民を容易にすることである。その結果は、何らの経済的・政治的権利も持たない膨大な非市民の労働力の創造である。賃金を低下させ、労働条件を低下させ、それら賃金労働者たちを雇用する者の利益を上げるために使用しうる-そして実際に何度も何度も使用されてきた-人々である。

次の点はここで議論する必要があるだろう-そして、私の読者の大部分は困惑するかもしれない。つまり、誰がアメリカ人賃金階級の破壊から利益を得たのかである。アメリカの保守派と見なされる人々は、あらゆる人が今示した変化から利益を得たのであり、そうでない人たちは自分自身の責任であると主張することを好んできた。同様に、アメリカのリベラル派と見なされる人々の間で人気のある主張は、それらの変化から利益を得たのは上位1%に属する悪辣な超資本家であるというものだ。これら2つともごまかしである。なぜならば、賃金階級の破壊は、先に私が示した4つの階級のうちの1つに不釣り合いなほどの利益を与えたからだ: すなわち、給与階級である。

これがその理由だ。1970年代以来、上述の給与階級のライフスタイル -郊外の持ち家、数年毎の新車、マサトラン [メキシコの観光地] での休暇、など- は、時代錯誤 アナクロニズム と化した: ジェームズ・ハワード・クンスラーの有用なフレーズを使えば、未来なきアレンジメントである。それは完全に、第二次世界大戦の勃発によって発生したアメリカ合衆国によるグローバル経済支配の産物であった。当時、地球上の他のあらゆる主要工業諸国は、敵対国の爆撃機に工場を破壊しつくされ、ペンシルヴェニア、テキサスとカリフォルニアの油田は、地球上の他のすべての国の合計よりも多くの石油を算出していた。アメリカによる世界支配は、けれども、急速に過ぎ去ってしまった。当時、1970年代にアメリカの在来型石油生産はピークを迎え、ヨーロッパとアジアの工場はアメリカの工業的ハートランドを打ち負かした。

そのような変革の歯のなかで、給与階級のライフスタイルを維持するための唯一の方法は、給与階級の平均的購買力に比例させて商品およびサービス価格を強制的に低下させることであった。給与階級は、その規模に対して不均衡に大きい経済的・政治的影響力を行使した (そして、今でも行使し続けている)ため、これが1970年代の規範となった。そしてそれは今日までアメリカの公的生活における政治的コンセンサスとして留まり続けている。賃金階級の破壊は、そのプロジェクトの1つの帰結でしかない-アメリカにおけるあらゆる種類の製品の劇的な品質低下、国家的インフラの卸売などは、そのプロジェクトによるまた別の結果である。しかし、それが今日の政治という観点から関係のある帰結である。

注目に値するのは、同様に、賃金階級に対して給与階級から提示されるあらゆる救済策は、実際には賃金階級の犠牲のもとに給与階級に利益を与えるものであったということだ。過去数十年間、賃金が支払われる仕事の消滅により職を失なった人は、大学に通い職業訓練を受ければ再び繁栄のパレードに参加できると大声で主張されていたことを考えてみてほしい。学生ローンにサインして大学の講義を受け-職業訓練を受けた人々にとって、それは大してうまく行かなかった。結局のところ、存在しない仕事への訓練を受けたとしても大して役に立つわけではない。そして、あまりに多数の元賃金労働者は、大学教育を修了した後でも以前より職業上の見込みが向上したわけではなく、引き換えに何万ドルもの学生ローンの負債を負わされたのだ。彼らにローンと講義を押し付けた銀行と大学にとっては、けれども、これらプログラムは莫大な額の金のなる木 キャッシュカウ だった。そして、銀行と大学で働いている人は、ほとんどが給与階級だったのだ。

賃金階級の経済的希望を破壊し、彼らに劣等な未来を割り当てた変化に対して何らかの実効性ある異議申し立てを行なう試みは、これまでのところほとんどなされていない。ある意味では、宗教的・道徳的な基盤のもとで賃金階級の有権者共和党候補を支持するよう仕向けさせる、共和党による継続的な努力の目的はこれだ。それは左側の末端で民主党が採用してきた策略の鏡像である-確かに、民主党はあなたにとって最も重要な問題に取り組んでくれないかもしれない。けれども、あなたは共和党員ではないので、一番感情を害されない政党に投票する。そうではないだろうか? よろしい。もしもあなたが、あなたにとって最も重要な関心事にまったく対処されないことを確実にしたいのならば。

けれども、更なる障害が存在する。それは、賃金階級にとって本当に重要な問題を提起する試みに対する、給与階級の広い範囲 -左、中道、右、どんな名前であれ- からの反発である。稀な場合にこれがパブリックな空間で発生した時には、賃金階級の代弁者はコキ下ろされる。私がこの記事の最初に議論したような大盛りのあざけりによって。同様のことがプライベートで起きた場合は、異なるスケールで同じことが起きる。もしも疑うのであれば -読者はおそらく疑っているだろう、もしもあなたが給与階級に属しているのなら- 以下の実験を試してほしい: あなたの給与階級の友人たちを何かしら気楽な状況に置いて、一般的なアメリカ人労働者についての話をさせてみるのである。そこであなたが耳にすることは、粗野で、戯画的な一面的ステレオタイプから、正真正銘のヘイトスピーチまでの範囲に及ぶだろう。賃金階級の人々はこれに気付いている; 彼らはすべてを聞いているのだ; 彼らは馬鹿で、無知だなどと呼ばれている。

そこで、読者諸君、ドナルド・トランプの登場である。

トランプは聡明である。これにはいささかの皮肉も込めているつもりはない。トランプは、賃金階級を自身の旗印のもとに結集させる最も効果的な方法は、給与階級からの通常通りの鋭いあざけりによって自分自身を攻撃させることであると気付いたのだ。あなたは本当に思うだろうか? - 数億ドルを持つ男が、給与階級から受け入れられるような髪型をする余裕が無いなどと。もちろん、彼にはそれが可能だ; 彼は意図的に異なる方法を選択しているのだ。なぜならば、メディアの特権的なコメディアンの誰かが、あるいはインターネットの荒らしが、トランプが給与階級の好みを満たせないことを直接的に侮辱するたびに、別の数万人もの賃金階級の有権者たちは、自分が経験した給与階級からの終わりなき侮辱を思い出して、こう考えるのだ。「トランプは私たちの一員だ。」

トランプが、許容される政治的言説に関する現行のルールに意図的に違反していることも、同一のロジックが支配している。トランプが何かを口にして専門家を極度の混乱に陥れさせるたびに、また、今度こそ彼はやりすぎで選挙キャンペーンは必ずや無様に崩壊するだろうとメディアが自分自身と視聴者を信じ込ませようとするたびに、トランプの支持率が上昇していくことに気がついただろうか? トランプが話していることは、労働者向けの居酒屋やボウリング場で、違法移民やムスリムのジハード戦士テロリストが議論に登るときに話されていることとまったく同じなのである。メディアの金切り声は、トランプのアピール対象である賃金階級の有権者たちの心の中では、トランプは彼らの仲間であるということ、スーツの人間に見下された賢明な考えを抱く普通のアメリカ人だということを確証するものでしかない。

また、トランプが発する専門家にとって受け入れ難いコメントが、レーザーのごとき正確さで移民問題に焦点を当てていることにも気がついただろうか。それは入念に選定されたスタート地点なのである。というのは、違法移民の削減は、共和党がしばらくの間支持すると主張していたことであるからだ。トランプがリードを広げるにつれて、今度は、方程式の逆側についての話も始めている。雇用のオフショアリングである。海外のアップルのスウェットショップに対する最近のトランプの攻撃がこれを示している。トランプのジャブに対する主流派メディアの反応は、この事例を証明する好例である: 「もしもスマートフォンアメリカで製造されていたら、我々はスマートフォンにより多く支払わなければならないだろう!」というものだ。そして、もちろんこれは正しい: もしも賃金階級が家族を養えるだけの真っ当な仕事を得るのならば、給与階級は自分のオモチャにもっと多く支払わなければならない。これは給与階級の多くの人々にとっては考えられないことである -自分たちが使うエレクトロニクス製品が、海外にある地獄の穴の底で飢餓的賃金で製造されていることに対して、給与階級の人々は完全に満足している、それによって価格が低下する限りは- それが、トランプが極めて効率的に活用している煮えたぎった憤怒の釜を理解する一助になるかもしれない。

トランプが、人々の憤怒に乗って一直線にホワイトハウスへと至るのかはまったく定かではない。けれども、現時点ではそれが一番可能性の高そうな結果だと思える。とはいえ、彼が敗北したとしても、それが政治的エスタブリッシュメントがあらゆる批判を投げかける中で彼をフロントランナーの地位へ引き上げた現象の終焉を意味するなどと考えるほど、読者諸君がナイーブだとは信じていない。私は、トランプの立候補をアメリカの政治生活における大きな分水嶺と捉えている。賃金階級 - アメリ有権者の最大階級であることを忘れないでほしい- が自分自身の力のポテンシャルに目覚め始め、給与階級の上昇に対し反発を始めた地点である。

トランプが勝とうが負けようが、その反発は今後数十年間のアメリカ政治を定義する力となるだろう。それでも、トランプの立候補は、ありえないほどの最悪の形だというわけでもない。もしもトランプが敗北したとすると、特に、明白に不誠実な手段によって負かされたならば、賃金階級の大義を継承する次のリーダーが好むものは、軍隊の腕章、さらに言えば、路肩爆弾である可能性がとても高い。ひとたび憤怒の政治が開始されたならば、いかなることでも起こりうる。とりわけそれが当てはまるのは、おそらく言っておかなければならないだろうが、当の怒りがそれを向けられた人々の行動によって十分に正当化される場合である。