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渡辺遼遠の雑記帳

書評:トランプ政権の暴露本決定版、だが…『FEAR 恐怖の男』(ボブ・ウッドワード)

FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実

FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実

トランプ政権の内幕を暴露する本は、『炎と怒り』(本サイト書評) など、これまでにも何冊か出版されている。しかし、本書は2018年までのトランプ政権を描き出した書籍としては決定版になるだろうと思う。

『炎と怒り』の著者、マイケル・ウォルフは無名のゴシップライターであり、その情報ソースはスティーブ・バノンにかなり偏っていたと言われる一方で、本書の著者ボブ・ウッドワードは、ニクソン政権のウォーターゲート事件をスクープした伝説的ジャーナリストであり、複数の関係者に綿密な取材を行っている様子がうかがえる。

内容も極めて堅実で、ゴシップ的な政権高官同士の不和だけではなく、トランプ政権の意思決定プロセスがどれほど混乱しているかを丁寧に書き出している。トランプ自身は自分の直感を絶対的に信じている一方で、軍事と経済の主流派・良識派は、必死でトランプを説得し、時には書類の下書きを隠して(!)それをトランプが忘れるのを待つといった滅茶苦茶な方法を取り、何とか政策に一貫性を持たせようとしているのだという。

 

煽情的でもなく、党派的立場に偏らない記述は好感が持てるし、良書であることは間違いなく、アメリカの政治史を語る上で今後数十年間参照され続ける本となるだろうけど、正直なところ、若干読んでいてダレてしまった感は否めない。トランプ劇場も多少食傷気味かもしれない。

合わせて読みたい

過去読んだトランプ関連本で印象に残ったものを紹介。

トランプの前半生と選挙戦を扱った(大統領当選以前の)ものは、『トランプ』(ワシントンポスト取材班)、と『熱狂の王 ドナルド・トランプ』(マイケル・ダントニオ) で詳細に書かれている。

政権高官の目線ではなく、アメリカの行政機関の職員たちが見たトランプ政権の混乱っぷりは、『The Fifth Risk』(マイケル・ルイス) (本サイト書評)が面白かった。