Going Faraway

渡辺遼遠の雑記帳

2018年を振り返る

オクスフォード英語辞典が選ぶ2018年の流行語候補の中に、「techlash」という語があった。これはtechnologyとbacklash (反発、反動) を組み合せた語で、読んで字のごとくテクノロジーおよび巨大テクノロジー企業 (GAFA) に対する反感・反発を表す言葉だ。

(ちなみに、2018年の新語として最終的に選ばれたのは「toxic」であった。(化学的に) 毒性があるという旧来の用法ではなく、不快な、攻撃的な人間関係や態度等を表す用法だという。日本語でも「毒親」という表現がありますね。)

しかし、やはり2018年を最も象徴する語は「techlash」ではないかと思う。

人工知能

去年ごろから言われていた通り、「ディープラーニング人工知能 (AI)」に関する非現実的な夢想めいた語りはほぼ鳴りを潜めた。代わって、技術の有効性と限界を認識した上で、現実的に役立てようという姿勢が強まっていったように思う。日本でのAIに関する語りの方向性を決定付けたという点では、やはり『AI vs. 教科書が読めない子どもたち (新井紀子)』(書評) の功績は大きかったと感じる。数年間のAIブームを振り返り、特に「AIと労働」についての言説を評価しようという書籍や記事 (過去記事)、成熟してきたAI技術を実際に使うためのケーススタディ等も増えてきた。(たとえば、私が読んだ中では『仕事ではじめる機械学習 (有賀 康顕)』など)

しかし、現状のビッグデータと統計・機械学習を使ったAI技術は、「人間に似たAI」を実現することはできない (少なくとも、短期間では不可能) とさまざまな識者が指摘している (たとえば、私が紹介したマイケル・I・ジョーダン氏のエッセイを参照) 一方で、既に実用化されているデータ技術がさまざまな問題を引き起こしていることも明らかになった。『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠(キャシー・オニール)』(書評) では、不完全で不透明なAIがバイアスを構造的に助長していることが批判され、ソーシャルメディアが世論操作に利用されていることを指摘するものもあった。特に、Facebookが個人情報の流出や選挙への介入等により厳しく批判されたことは印象的であった。

自動運転

今年、世間の見方が一番大きく変化した技術は、自動運転ではないかと思う。今年3月にはUberの死亡事故が発生し、テスラは将来の完全自動運転オプション販売を一方的に中止した。今年12月、ウェイモは自動運転の商用サービス開始をアナウンスしたものの、エリア、利用者は厳しく制限され、また常時オペレータが乗車しており(Wiredの記事)、数年前に夢想されていた自動運転の水準には遠く及ばないものであった。

日本のプレイヤーにも多少触れておくと、数年前、情報流出事故を起こして上場中止になったZMPは、2018年中に再上場が噂されていたものの、遂に実現しなかった。DeNAのオートモーティブ事業ロボットシャトルの実証実験は、2017年11月以降の実績が掲載されていない。鳴り物入りで登場した宅配便無人配達の実証実験「ロボネコヤマト」は、既にサイトが消滅してしまった。2018年後半のDeNAオートモーティブ事業部のリリースは、ほぼ全てがタクシー配車アプリに関するものである。

2018年末時点において自動運転の未来はかなり不透明であるものの、自動車の運転は、より「スマート化」される方向に進んでいくだろうと私は信じている。(そして、高速道路での自動運転がある程度実現されている通り、自動運転の実用化は言わば「まだら状」に進んでいくだろう。これについては項を改めたい) それでも、数年前に、あるいは今現在考えられているよりも自動運転の実現には長い、長い時間を要するだろうし、無形の法制度や運転習慣、有形の都市や道路インフラを含めた大きな変化が必要とされるだろう。

今年の一冊

このブログは書評ブログなので (今年から) 、2018年のベストの1冊を挙げておきたいと思う。 

血液検査ベンチャー、セラノスと創業者エリザベス・ホームズの不正行為を扱ったルポ。超一流の調査報道というだけではなく、テクノロジー企業・起業家や研究者が唱える夢想的な未来予測に対する社会の適切な距離の取り方を考えるために重要な本であるため、今年の一冊に選びたい。