Going Faraway

渡辺遼遠の雑記帳

「危険な年」 ジョン・マイケル・グリアの2018年予測

ジョン・マイケル・グリアの2018年予測が面白かったのでメモしておきます。グリアは、米国の「ドルイド教」という古代ケルトの信仰の復興を目指すネオペイガニズムの宗教家ですが、極めて特異な視点を持った博学な歴史家としての一面があり、種々の文明批評的な著作があります。

グリアは、2016年1月に、未だスーパーチューズデー以前の段階で、2016年11月にドナルド・トランプが大統領選挙に当選することを予測していました。そのため、私は彼の予測に非常に信頼を置いています。また、米国のさして高い地位に居るわけではない市井の人の視点からの合衆国政治ウォッチとして、非常に興味深い予測であると考えるのでここで紹介します。

予測手法

…my method in making these predictions is at once simple, effective, and highly unpopular.  Put briefly, I pay attention to what happened when the same conditions occurred in previous historical epochs, and predict that the same consequences are going to follow.

(私訳) 私の予測手法は、一見シンプルで、効果的で、非常に不人気なものだ。簡潔に言えば、過去の歴史時代において同様の状況が発生したときに何が起きたのかに注意を払い、そして、同様の結果を生むと予測するものである。

人類には既に5000年もの歴史があり、また近年の人々は歴史の教えが自分自身に適用できると考えておらず歴史を軽視しており、結果的に歴史的事例と同じ状況に陥ることが多いので、この方法が有効であるのだと言います。

総合的予測

Some historical epochs are more dangerous than others, and the most dangerous of all are those in which a once-great empire is on the way toward history’s dustbin.

(私訳) いくつかの歴史時代には、他よりも危険な時代が存在する。そして、最も危険な時代は、かつての大帝国が歴史のゴミ箱へと向かう道程である。

  •  アメリカが超大国としての地位から落ちていくことが、米国の国内政治と国際情勢を形成する
  • これまで、誰も予測していなかったような「ブラックスワン」的事象が発生する

米国の国内政治

  • トランプ政権は、過去の大統領たちと同様の方法を取り、それに成功している
    すなわち、自身に敵対する人々を犠牲にして、自身の支持者にエサを与えることである
  • 民主党は、2016年の大統領選挙の敗北から教訓を学ぶことに失敗している
    ゆえに、2018年の中間選挙、2020年の次期大統領選挙でも共和党が勝つ見込みが高いと見ている
  • ただし、ここにもブラックスワンが存在する

While you’re watching domestic US politics, by the way, keep an eye out for a massive sea change that’s under way this year, though it probably won’t have an impact for a few years yet: the absurdity of Christians in America supporting a political agenda that directly contradicts the teachings of Christ has begun to sink in, in a big way, among young American Protestants.

(私訳) アメリカ国内政治を見る時には、今年進行する巨大な潮流の変化に眼を向けてほしい。しかし、この影響が明らかになるまでにはまだ数年を要するだろう:アメリカのキリスト教徒は、キリストの教えと真っ向から矛盾する [共和党の] 政治的アジェンダを支持することの馬鹿さ加減に気付き初めている。とりわけ、若いアメリカのプロテスタントにおいて。

Donald Trump, interestingly enough, seems to have been the bright orange straw that broke this particular camel’s back; a great many young evangelical Christians, watching their elders turn cheerleader for a man who’s a poster child for every one of the seven deadly sins, have had enough.

(私訳) ドナルド・トランプは、興味深いことに、ラクダの背骨を折る最後の藁であったようだ。極めて多くの若い福音派クリスチャンは、老人たちが7つの大罪の全てを体現したような男の支援者となったのを見て、もう十分だと考えている。

  •  米民主党は、未だこの状況を活用することができていないが、数年以内に巨大な地殻変動が起きる可能性がある
  • それは、大西洋を挟んで英労働党ジェレミー・コービンが行なっていることと似た事象である
    すなわち、与党のクローンと化す以前の、政党の元の姿を取り戻すことである
  • これが2020年以前に発生すれば、次期大統領選挙において「左派福音派」が巨大な勢力となるだろう
    もし2020年に民主党が敗北することがあれば、その後に左派福音派の勃興が起こるはずだ

国際情勢

  • 前述の通り、アメリカの衰退が国際情勢を形成する
  • シリア、エジプト、トルコなど中東諸国でロシアの影響力が強まりつつあり、この傾向は続くだろう
  • 小国が地域的野心を抱き、局所的な紛争が発生する可能性はあるが、ロシア、中国、イランなどアメリカと対峙する国家との間での大規模な衝突は決して起こらないだろう
    彼らは、ただアメリカの衰退を待っていれば良いのだから
  • 国際情勢について議論する際には、特にサウジアラビアに注目するべきだ
  • 絶対王政国家が、経済改革を実行しなおも権力の座に留まり続けることは、極めて危険な政策である
    それは、フランスのルイ16世が1789年までに、1917年以前の何年もの間にロシアのニコライ皇帝が、1978年以前の数十年間にイランのシャーが試みたことであるが、サウジアラビアムハンマド・ビン・サルマーン皇太子は同じ政策を取っている

経済

  •  株高や仮想通貨の価格上昇は、続くかもしれないし続かないかもしれない
  • 「幻想の経済」が重力の法則に従うという理由はない
  • 注目するべきトレンドは、バブルではなく「官製経済」 と現実の経済問題との乖離である
What we’re seeing, in other words, is the transformation of the US economy into a Potemkin Village capitalism in which government largesse backed by Ponzi financing props up a thin imitation of prosperity over the top of spreading impoverishment. It’s not accidental that Elon Musk, one of the most highly touted of the new generation of capitalist grandees, runs all his businesses on government subsidies.

 つまりは、我々が眼にしているのは、アメリカ経済のポチョムキン村資本主義への変貌である。ネズミ講ファイナンスに裏付けられた政府の下賜金が、貧困の拡大を代償として繁栄の薄っぺらい模倣を支えている。新世代の資本主義の大公として最も賞賛されているイーロン・マスクが、全ての事業を政府補助金に頼っていることは、偶然ではない。 

環境問題

  • 環境問題は重大な問題ではあるが、実効性のある対策は (これまで通り) 何も取られないだろう (この主張は、例年通りの彼の予測)